オーガニック村に不足しているのは科学と統計の教養

2019年5月4日読書・書評

ハーバード大学を経てUCLA助教授として活動する津川氏の『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』をさくっと読んでみた。タイトルから本書は健康にいいものや病気を予防する食品を紹介している本に見えるが、実際には統計やデータ、事実の重要さを説いた本だった。

本書で解説している科学的に証明された食事

  • 白米は少なければ少ないほどいい
  • 赤い肉(牛肉、豚肉)は少ないほうがいい
  • リコピンが体にいいのかはわからない
  • フルーツジュースはできるだけ避ける

本書は健康な食事というものが主題ではないと考えているのだが、研究やデータで明らかになっている例として下記のようなものを上げている。また、体や健康によいのか悪いのかわからないものは「わからない/わかっていない」と示している。これらは筆者の体験談や成功した健康法のようなものではなく、信頼できる実験によって示されたものである。

政府や省庁の指針に科学的根拠はない

記憶が曖昧だが小学校の頃に廊下に貼ってあるポスターや家庭科の教科書に「理想の食事バランス」のようなものがあった記憶がある。米一膳と味噌汁、おかずが載っていたのだけれど、これには科学的に健康な食事であるという根拠はまったくない。厚労省や農水省はガイドラインのようなものを発表するのだが、これには各省庁の思惑や意図がどうしても含まれてしまう。農水省であれば国内で消費した米を食べてほしい。しかし白米が健康によいという科学的な根拠はなく、むしろ摂取量が増えれば増えるほど健康に悪影響であることが明らかになっている。

アメリカでも乳製品をとろうみたいな話があるようだが、これも業界の強いロビイングに起因するもので、ガイドラインが歪められるということはよく起きている。

科学的にオーガニック食材は健康によい?

農薬を(できるだけ)使わないオーガニックの食材が健康にいいのか?どういった影響やメリットがあるのかも研究で明らかになっている。オーガニック食材は栄養価が高く、安全だという印象があるが実際にはどうなのでしょうか?2012年にスタンフォード大学の研究者たちがオーガニック食材の健康への影響に関するエビデンスをまとめています。人間を対象とした17の研究と223の食材調査研究をまとめてある程度の結論を出しています。

  • オーガニック食材は一般の食材と比べて栄養価は変わらない
  • 微量残留農薬はオーガニック食材のほうが少ないが、通常の食材でも結構被害を引き起こすレベルではない
  • 病原性大腸菌に汚染されている確率には差はない
  • 冬場にオーガニックの肉はカンピロバクターによる食中毒リスクが約7倍

オーガニックとかグルテンフリーとか健康界隈にはいろんな宗派があってその宗教に入信するのもいいのですが、科学を頼りにするのが一番健康かなと考えるわけです。

重要なのは食事と生活のバランス

本書では含まれる成分ではなく成分に注目しなければならないことを説明している。これはカロリー量やビタミン○○の量ではなく、どの食品から摂取するのか?ということである。健康のためには食品に含まれる成分だけ見てればいいわけではなく、食品全体としてどういった影響があるのかを分析しなければ意味のない研究になってしまうことを明らかにしている。

またこれと同様に体にいい食品悪い食品がわかったとして、その科学的根拠をすべて受け入れ、完全に食事をコントロールすることが絶対的によいのだろうか。肉は悪影響があるとわかったとしても、肉を断ったところでそれによって異常なストレスを受けるのであれば意味がない。地中海の食事が健康によいことがわかったとしても料理が苦痛なのであれば全体的にみれば健康を害するかもしれない。

重要なことは成分だけを見ることではなく、食品だけを考えることでもなく、生活のなかでの食事を考えることで、どこまで取り入れて実施するのがよいかはそれぞれの個人によるといったものになるかもしれない。

食事術というより統計の話

本のなかでも健康によい食品、健康に悪い食品の紹介もしていますがそれらは一例でしかなく、得られるものはこれがいい悪いではなく、今後の健康や食事の情報に接する姿勢だった。基本的にテレビの健康番組などは見ないほがよさそうだし、永遠に健康によい食品を紹介している雑誌とかも同様です。こういった健康ポルノの情報に惑わされないで、せっかく科学が発達しているんだからそちらを重視していきましょう。

こういった本を読んだりするたびに文献や論文を読むために英語必須だなと思うわけです、、

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2019年5月4日読書・書評