子どもの知能は遺伝で決まるから子育てに意味はない?「言ってはいけない」【書評】

2019年2月8日読書・書評

最近はなにごとにも科学的にアプローチしようというのがマイブームになっており、働き方や幸せのような大きなテーマについてもこのあたりが非常に気になっているわけです。

そんなときにNewsPicksで橘玲氏のお金に関する戦略みたいな記事が反響を呼んでいるのを見かけて一通り本を購入してみました。彼の著書で言えば『マネーロンダリング入門―国際金融詐欺からテロ資金まで (幻冬舎新書)』なんかは昔読んだ記憶があるんですが、ここ数年は「自己啓発みたいなものだろ」と敬遠していました。しかし少し記事や書評を呼んでみるとファクトやデータに基づいたものが多いようで、自分がベンチマークしているような人たちからも評判がいいようなので、とりあえず4冊くらいまとめて購入してみました。今回はそのなかの1冊である『言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)』を読んでみて感じたことを「遺伝」と「子育て」を中心に書いてみました。

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

『言ってはいけない』の要旨

今回取り上げた『言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)』は一般的に人が空気を読んで言うのを避けたり、盲目的に信じているような『わざわざ言わなくてもいいような真実』を語る本です。

  • 努力に意味はなくて遺伝で決まる
  • 子育てにあまり意味はない
  • 黒人男性は犯罪率が高い
  • 犯罪者の子どもは犯罪者になりやすい
  • 悪い容姿は収入を下げるが女性よりも男性の方が顕著

これらのことって誰かが反論したり余計な議論を生み出すもとですよね、、体験や考えを排除してできるだけ科学的にデータや研究をベースにこれらが本当なのか?を検証しています。

「黒人の運動能力が高い」ということは認めるのに「黒人の論理的思考力が低い」には反論したいのは、この世界では論理的思考力がと ても重要であると考えられているからですよね。顔は親に似るのに知能が親に似ないということがあり得るのでしょうか?教育から美貌、人種、貧困、恋愛セックスと幅広いテーマに言及があり知識としてもエンタメとしても楽しめる本でした。

子どもの知能はどれくらい遺伝で決まるのか?

この本では「遺伝」に関する記述が多いのでまず遺伝について紹介します。遺伝の影響を調査するためには遺伝子が同じ一卵性双生児にお願いをしたり、また遺伝子がまったく同じ一卵性双生児が別の環境(家庭)で育ったケースを追跡すると遺伝子と環境の影響を調査することが可能です。(詳しくは本書をお読みください。)

調査の結果からわかったことは、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能の遺伝率は77%ということでした。遺伝率という言葉の定義がわかりにくいのですが、ちなみに身長の遺伝率は66%、体重は74%です。身長や体重は割と遺伝することは感覚としてもあると思うのですが、身長や体重と同じくらい論理的推論能力や一般知能も遺伝で決定するということです。また犯罪率の遺伝は顕著で、別に育てられた双子や養子の遺伝率からも明らかでした。

こころと遺伝・環境の関係

「共有環境」というのは家庭での食生活や習慣などを指し、一般的に子育てと呼ばれる部分です。「非共有環境」というのは異なる環境という意味で、どういう友だちと付き合うか、どの学校に行くか、どのコミュニティに所属するかといった一般的にいう環境のことです。

様々な項目で数値をとっているのですが、音楽の遺伝率は92%(自分の才能がないのに子どもを音楽家にさせるのは無謀)、スポーツの遺伝率は85%(野球が好きだけど自分にセンスのなかったお父さんが子どもに猛練習させるのも無駄)という結果が出ています。学業成績は「共有環境」の影響もあるが、論理的推論能力や一般知能には「共有環境」が影響しないというのもおもしろい点です。

重要なことは言語系の除いた知性や性格といったものへは、遺伝と非共有環境しか影響を与えず、子育てや家庭環境といった共有環境はまったく影響を与えないということです。

子育てによって子どもをコントロールするという幻想

「こころ」に関するものでも遺伝子の影響はきわめて大きく、子育てはほとんど関係ありませんでした。

 こころと遺伝・環境の関係

発達障害やADHDの遺伝率は80%以上(※親が発達障害なら80%の確率で遺伝するという意味ではない)となっています。犯罪が起きたりすると、幼少期の親の育て方や教育環境にスポットを当ててコメンテーターがなんの根拠もなくあれこれ感想を言ってますが、あれって完全に適当ですからね。子育てが原因で子どもが非行に走るという理論ってのはあまり論理的ではないということです。

よく「子どもの能力は遺伝と環境によって形成される」と言われますが、実際には子どもの遺伝子と非共有環境の相互作用によって形成されるということがわかりました。その過程に親はほとんど影響を与えることができません。ポケモンの個体値と同じですね。

子育てが子どもに影響を与えると言う子育て神話自体が、核家族をベースにしたそもそも科学的根拠のないイデオロギーであるというのも正しい気がします。

じゃあ親が子どもにできることは?

すべてが遺伝で決まって親の教育は無意味であると言っているのではありません。(ほとんど無駄ですが)これらのデータからわかることは家庭環境や子育てといった「共有環境」にはあまり意味がないが、「非共有環境」には意味があるということです。どういうことかと言うと親のしつけやアドバイスにはあまり意味はないが、適した環境に所属させてあげることには意味があるということです。

才能や能力はもちろん遺伝しますが、どの能力を発露するかは環境によって左右されます。ピアノのない世界ではピアノの才能は発揮されませんし、友だち全員が自分よりピアノがうまかった場合にもその子はやる気をなくすかもしれません。親のいちばんかつ唯一の役割は、子どもの持っている才能の芽を摘まないような環境を与えることです。

 

知的能力を伸ばすなら良い成績をとることがいじめの理由にならない学校や集団を選ぶこと、芸術的才能を伸ばしたければ風変わりでも笑い者にされたり仲間はずれにされない環境が必要。

こういった点ではみんなが勉強をする進学校に入ったりするというのもある意味ではメリットもあります。しかし勉強が得意か不得意かは遺伝なので本当に勉強が好き(適性がある)という場合に限ったほうがよさそうです。

子どもの成績が悪いとかスポーツができないとか音楽の能力がなかったら、子どもを責めるというのは全くのお門違いなので、そういう遺伝子なんだと自分とご先祖を恨むのがいいのではないでしょうか。

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

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